7.ワンピース史上最大の失敗


  対比的な関係は、物語を面白くする上で最も効率的な要素である。

  それだけに、この対比的な関係を蔑ろにしたが為に、
  後々まで語られるような名作足りえた作品が、凡作へと成り下がることも珍しくない。

  その典型が2009年公開のアニメ映画
  ONE PIECE FILM STRONG WORLDである。
  

  アニメ10周年&原作者の尾田栄一郎が製作総指揮を行うなど
  明らかに力の入った体制で、アニメスタッフが会議で作った敵キャラとは違い。
  本作には、主人公のルフィと非常にいい関係を持ったキャラクター
  『金獅子のシキ』が登場する。
  

  この『シキ』の何が良いかというと
  「海賊王ゴールド・ロジャー」に対する考えが、ルフィと
真逆という点にある。

  
  ご存知のように、ルフィといえば海賊王というものに対し
  絶対的な尊敬や憧れを抱いており、何より彼の夢は「海賊王になる」ことに他ならない。

  一方のシキは、ライバルとしてロジャーの実力こそ誰より認めているが
  互いの主義・思想の違いから大規模な戦闘へ発展。
  戦いを優位に進めるも、自身の弱点である嵐に見舞われロジャーに敗北。
  大半の戦艦や仲間を失った挙句。処刑という形で「勝ち逃げ」を決め込むロジャーを
  仕留めるべく単身、海軍本部へ突撃。
  結果、大監獄インペルダウンへ幽閉され、脱獄の代償に両足を切断する。等

  ロジャーに対するコンプレックスの塊のような男なのである。


  はっきり言って、この対比は死ぬほどおいしく。やり方さえ間違えなければ、
  ワンピース史上に残るような名シーンを容易に生み出すことができるのだ。

  では、以上の点を踏まえて、実際のクライマックスを見てみよう。

  インペルダウンを脱獄した伝説の大海賊『金獅子のシキ』は、巨大生物を使い
  今は亡き宿敵ロジャーの故郷である東の海の壊滅を目論んでいた。
  さらに世界政府打倒も計画するシキは、自身の弱点である強風を完璧に予測する
  天才航海士ナミを連れ去るのだった。
  麦わらの一味はナミを取り戻すためシキへ戦いを挑むが、圧倒的な力の前に敗北。

  故郷と仲間を守るためシキに従うことになったナミだったが、
  本拠地での破壊工作がシキに露見してしまう。
  刻一刻と命の危機が迫る中。麦わら海賊団は、仲間を救うため、東の海を守るため
  シキの本拠地へと殴り込みをかけるのだった。
  乱戦の中、ウソップとチョッパーは毒の木に磔にされていたナミを助け出すのだが
  シキに見付かり絶体絶命のピンチに陥る。
  そこへルフィが登場。いよいよ最後の一騎打ちが始まる……。



  

  

  このシーンは映画全体、ひいてはワンピースという作品全体でも
  特に盛り上がる名シーンになるべき場面である。
  それが、
なんという糞さだろうか!

  このやらかし具合は、2006年W杯の柳沢に匹敵するものがある。
  

  特に酷いのがここだ。


  
  
「おれ達の運命を、お前が決めんな!!!」

  なんとダサい台詞だろう。まるで、三者面談で厳しいことを言われた中学生ではないか。
  命を懸けた大冒険をしてきた男がこれでは、文字通り話にならない。

  ロジャーに憧れ人生を掛けて旅立った男とロジャーを恨みその故郷を滅ぼす男。
  この2人がいて何故にロジャーを絡めないのか?


  

  

  

  QBK&TheQBK。
  わざわざ尾田栄一郎を起用し、最高のパスが出た結果このザマである。

  このコマなど見て欲しい。

  

  何が「まだ、あがくか……」だよ。安っぽいってレベルじゃねぇぞ!


  前評判や興行収入に比べ「STRONG WORLD」の評価が「劇場版の中なら、まぁ……」
  といった程度に収まっているのは、ほぼこのシーンでのQBKが原因といってもいい。

  今現在、信用できる数少ない映画評論家ライムスター宇多丸も、このシーンへの評価は芳しくなく。
  「手も足も出ず完敗したはずのシキに何故勝てたのか納得がいかない」点などは強く批判された。
  http://www.youtube.com/watch?v=7eLzScJASEg
  (2分15秒あたりから)

  だが、実はこの場面にはカラクリがあり、勝つロジック事態はが存在しているのである。
  なぜなら、このシーンでは吹雪によって、フワフワの実の弱点である強風が吹いているからだ。

  せっかく敵に捕まっていたナミがいるのだから
  「この吹雪ならシキは全力が出せない」と一言呟かせればいいのである。


  なのに、そういった気を回せず。
  「ナミ! あいつをブッ飛ばして、みんなで帰るぞ」みたいな
  安直で当たり前なことを言わせ、雰囲気だけで乗り切ろうとする。

  

  脚本を書いた奴は、ワンピース(のファン)を馬鹿にしているのか。それともただ馬鹿なのか。
  とにかく酷い仕事っぷりである。



  一説には、尺が足りなかったという話も聞くがそれと、このシーンのダメさとは一切関係がない。
  だからこそ、このシーンは見る度に感じる「あ〜何やってんだよ!」感は、凄まじいものがある。

  これまで挙げたロジャーと天候の優位。このたった2点をスルーすることで、
  どれほどの損失が起きていて、本来どれほどのシーンになっていたのか? 

  実際に修正してみるのでよく見て欲しい。

  特に、この脚本を書いた上坂浩彦! 俺は、お前に言っている。


  理想のSTRONG WORLD


  まず、シキの攻撃をはじき返し、ルフィ登場。
  
        

  ピンチを脱し喜ぶと同時に、
心配するウソップ
  
  
ウソップ「でも、どうするルフィ。ソイツめちゃくちゃ強えーぞ!」
        

  
  ナミ「大丈夫、この吹雪ならシキの奴、力を上手く使えないわ。アイツ……強風が弱点なのよ
         

  それを聞いて
はしゃぐウソップとチョッパー
  
  「おい、聴いたかルフィ! シキの奴、風が強いと全力が出せないらしーぞ」
  「いけー、ルフィ!」
         ↓
  一喝するシキ。

  
  
「ゴミ共が、調子に乗るな!!」
         

  
  
一転怯えるウソップとチョッパー
         

  
  シキ「伝説と呼ばれた時代……。たとえ、どんな嵐にみまわれようと
     俺は
ロジャー以外の海賊には一度だって負けたことがねぇ。
     そして、あの時! 嵐さえ来なければ、
ロジャーにだって勝っていた!!
     
これがどういうことか分かるか。麦わらぁ!!!」
 
      
  
ルフィ「いや、全然」
       ↓
  シキ「だったら、教えてやる」

  
 
「風が吹こうが、嵐になろうが
 
海賊王じゃなきゃ俺は倒せねぇってことだよ!
 
分かったか。
 てめぇみたいなヒヨっ子とは、そもそも住む世界が違うってこった!!」
         

  

  
ルフィ「そうか……だったら…………」
        
 ↓
  
  
「お前を倒して……海賊王におれはなる!!」


  どうだろうか?
  この方が一兆倍い良いではないか。

  ロジャーを絡めて、二人の対比を明確にするだけで「おれ達の運命を、お前が決めんな!!!」
  という凡庸な台詞が、ここまで変わってくるのだ。

  この一言が引き出せなかったがために、
  東映は、おそらく10億円はドブに捨てていると思われる。

  ただ、この2つを変更することで本当に
良くなるのは、そんなことではない。


  というのも、ロジャーと言う伝説的な存在と互角に渡り合ったシキの強さをアピールすることで
  「ナミを返せ!」「東の海に手を出すな!」といった脳筋ストーリーに
  日本全体。とりわけ、芸能界で顕著に見られる
  
過去の実績を楯にポストを譲らない上の世代チャンスの回ってこない若者
  
という現実にに存在する問題を作中に取り込むことができるからだ。

  この現実に存在する不条理をフィクションに重ねることには、大きな意味がある。
  なぜなら
ルフィが殴り飛ばしているのは、単に竹中直人が声を当てているアニメキャラではなく。
  見る人によって、
和田アキ子だったり、みのもんたであったり、明石家さんまだったり
  
大嫌いな上司になるからだ。

  なので、子供を連れて仕方なく来ていた親ですら、絶対的な権威(シキ)をブッ飛ばすルフィを見て
  「いけー!」と応援し、スカッとした気分で映画館を出られるというワケである。


  だが、ロジャーの対比と天候のギミックを放置したために、もっとMOTTAINAIことになった
  シーンが存在するのだ。

  ワンピ−ス史上最大の失敗2へ続く

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