8.ワンピース史上最大の失敗



  近年、最も「面白くなるはずだったのにやっちまった映画ONEPIECE FILM STRONG WORLD」
  
QBKは2度刺す。といわんばかりに、本来の10%の力すら出せていない
  ホームストレートでエンストしたポルシェみたいなシーンが、もう一つ存在する。

  それが、ラストの大技「ゴムゴムの巨人のトール斧」のシーンである。
 

 

  このシーンは説明するまでもなく。ルフィがギア3を発動し、足を巨大化させ
  「かかと落とし」を打ち込む瞬間。
  そこへ雷が落ち威力が倍増。ついにシキが倒されるという場面である。

  私が「ゴムゴムの巨人のトール斧」を、初めて見た時、抱いた素直な感想は
  「ああ、製作者側が、なんか最後に見た目を豪華にしたかったのね、うん」だったのだが、
  こんな冷めた気持ちになった人も、多いのではないだろうか?

  確かに、ずっと伏線の張られていたスーパーサイヤ人への覚醒と違い。
  いきなり雷が落ちて、パワーアップ↑とかやられても
  「意味わかんねwww」「都合よすぎィ」といった批判にさらされるのも、致し方ないだろう……
  
……がなんと、なんと

  もし、ロジャーの対比と天候を絡めていたら、この「いきなり雷」という展開は、
  ワンピースという作品の持つ。設定の壮大さ、奥深さを、これでもかと見せ付ける
  
超名シーンとなる……はずだったのだ。


  では、何がダメなのか淡々と説明していこう。

  まず、糞なのが雷の発生理由である。
  本編では、ウソップが援護射撃として撃った「天竜星」が、シキにかわされ
  雲に直撃したことで誘発された。というものであるが、ハッキリ言って最悪である。

  いかにも「ご都合主義展開」と言われるのが嫌で考えた「小手先糞理由」の典型だろう。

  ターミネーター2でも七人の侍でも「ご都合主義」といわれかねない場面というのが、幾らでも存在するが
  T2も七人も「ご都合主義」と言われなのは、魂が込められていたからである。
  (そして、魂を込めるには、作品の持つ要素を正しく見抜く必要があり、
   そのためにセンスが、足りなければ可視化することが求められるのだ)

  話が逸れてしまったが、気を取り直して断言しよう。

  
雷の発生理由は絶対に偶然良かった。

  もちろん、これには根拠がある。

  シキの宿敵。海賊王ゴールド・ロジャーには、こんな設定が存在する。
  

  相棒だったレイリーいわく。
  ロジャーは「万物の声が聞けた」「海から愛された男」であったという。
  そして、そんな若い頃の
ロジャーとルフィは、とても似ているのだ。

  そこで思い出してほしい。
  シキはロジャーを追い詰めながら、突然の嵐によって敗北している。

  そして再び、ルフィに突然落ちた雷によって、トドメをさされている。

  ここまで言えば、もうお分かりだろう。

  やられる瞬間。シキは
  
  「東の海の男に おれはまた はばまれるのか!!」
  なんて言っているが、ここは本来「おめぇも九州かぁ!」みたいな安っぽい場面ではない。

  あの場面で落ちた「雷」には、本来このような意味がある。

  シキは偶然の嵐によってロジャーに敗北したと思っていたが、それは決して偶然ではなかった
  
天の意志が海から愛された男ゴールド・ロジャーを選んだ結果であり、
  その男と似ているという
ルフィが同じく天に選ばれたというシーンなのである。

  だから、ここでのシキは「東の海の男にやられた。グギャー」ではなく。
  
「ああ……そうか……。そういことか……」
  ・自分が偶然負けたのではないと悟りつつ
  ・それでいて、復讐心が浄化されていき
  ・敗北しながらも、どこか満足げな表情を浮かべている。

  
と、こんなにも多層的な感情が表現できるシーンなのである。


  ようやく、ギミック理論に話を戻すが「ああ……そうか……」のシキのように
  ルフィがトール斧でシキを攻撃するという
アクションに対し、
  シキは一人で
3つものリアクションを、一瞬にして起こしている。

  この1つの
アクションに一人で複数のリアクションが展開される。
  
これを『トルク』または『逆重複』といい。

  ギミックの中でも、最高に効率よく面白さを引き出すことのできる。まさに必殺技なのである。

  よく「伏線回収に鳥肌が〜」などと言われるが、伏線回収シーンが多くの人に支持される理由は
  伏線が回収される瞬間に、この『トルク』が発生しやすいからなのである。

  
  △限定ジャンケンの名シーン。思い出しながら絶望する船井。

  この天の意志の理屈に、アニメスタッフが気付かなかったのは、
  原作の読み込みが足りないからではないし。私が気付いたのも、ワンピ−スマニアだからではない。

  面白さをUPさせるため、おいしい対比を探して発見し、tGPを増やしたら勝手にできたのである。

  しかし、そのおいしい対比に気付かなかったが故に、手塚治虫も嫉妬してくれるような名場面が
  鼻で笑われる脳筋糞理屈シーンに成り下がったのも、変えがたい事実である。

  個人的に、この対比の利用がギミック理論の中で、最も利便性が高いと考えている。

  なぜなら、対比を使えば必ず面白くなるというわけではないが、対比からは話を作るのが簡単なので
  ストーリー製作の踏み台や比較用のA案に使える上。
  はまった時は、トルクを発生させるほど高いポテンシャルを秘めているからである。

  とにかく、ストーリーに行き詰ったら、登場人物の感情、考え方、立場の対比を一度探してみてほしい
  もしかしたら、とんでもない油田が眠っているかもしれないのだから。


  9.何故スラムダンクは面白いのか?その2へ続く(予定)

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